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広島地方裁判所 昭和59年(ワ)1067号 判決

原告

山 﨑 晴 美

右訴訟代理人弁護士

小 笠   豊

被告

医療法人社団光仁会

右代表者理事

梶 川 憲 治

被告

梶 川 憲 治

被告

小 峪 康 利

右被告ら訴訟代理人弁護士

秋 山 光 明

新 谷 昭 治

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金一三五〇万円及びこれに対する昭和五九年一〇月三日(被告医療法人社団光仁会については同年一一月二二日)から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自二二六〇万円及びこれに対する昭和五九年一〇月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告は、二八歳の未婚の女性である。

被告医療法人社団光仁会(以下、「被告光仁会」という)は、医療施設を経営し、医療業務を行うことを目的とする法人であり、被告梶川憲治(以下、「被告梶川」という)は、被告光仁会の理事であるとともに、同被告の経営する梶川病院(以下、「梶川病院」という)の病院長である。被告小峪康利(以下、「被告小峪」という)は梶川病院に勤務する医師である。

2  医療事故の発生

(一) 原告は、昭和五九年一〇月二日夕方から腹痛があったため、翌三日梶川病院で被告梶川の診察を受け、触診など五分間くらいの診察で虫垂炎と診断され、その後血液検査と腹部レントゲン撮影を受けたが、右検査結果を待たずに即日入院して手術を受けることになり、被告梶川及び被告小峪が手術に立ち会った。

(二) 原告は、同日午前三時ころ虫垂炎の手術のために脊椎麻酔をかけられたが、その後で、執刀医の被告小峪が原告の腹部の腫瘤に気づき、同被告と被告梶川は、血液検査結果(白血球の数値七二〇〇)及びレントゲンフィルムを検討して、原告の症病名を卵巣嚢腫と診断し、全身麻酔に切り換えたうえ、被告小峪の執刀により手術が開始された。

(三) ところが、開腹後、左卵巣は嚢腫であったが、右卵巣に嚢腫はなく、右側部の腫瘤は、子宮筋腫であることが判明した。そこで、被告小峪と被告梶川は、子宮筋腫については子宮全摘術を行うことにし、被告小峪の執刀により原告の左卵巣と子宮が摘出されて本件手術が終了し、原告は、子供の生めない身体になった。

3  被告梶川及び被告小峪の注意義務違反(過失)

(一) 虫垂炎と誤診した過失

(1) 被告梶川は、原告の初診に際し、五分間くらいの短い診察でその症病名を虫垂炎であると診断した。その後、被告梶川は、血液検査とレントゲン撮影をしながら、その結果が判明しないうちに、虫垂炎手術のため原告を即日入院させ、被告小峪の執刀により手術に着手された。血液検査の結果、白血球数は七二〇〇と正常値であり、被告梶川の診断は明らかに誤診であった。

(2) 右誤診とその後の措置は、被告らの杜撰な拙速主義と営利主義に起因するものである。

(二) 転送義務違反

(1) 原告が手術室で脊椎麻酔を受けたのち、被告小峪及び被告梶川は、原告の症病名が虫垂炎ではなく卵巣嚢腫であることに気づいたのであるから、この時点で、外科医である右被告両名としては、診断及び手術適応についての判断の正確を期するため、産婦人科へ転送すべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、そのまま手術を強行した。

(2) 卵巣嚢腫、子宮筋腫のいずれも産婦人科の病気であり、産婦人科医であれば、内診と諸検査により、その診断は確実につけられるところ、被告らは、開腹前には子宮筋腫の診断がつけられなかったし、手術適応の判断にも誤りがあり、また筋腫核出術の技術も持ち合わせていなかったのである。

(三) 手術適応がないのに子宮全摘術をした過失

(1) 子宮筋腫とは、子宮に発生する良性の腫瘍であり、腫瘍が比較的小さくて過多月経、不正出血、月経痛などの症状がないものは、早急に手術を必要としないし、仮に手術するにしても、患者が若い未婚の女性である場合、あるいは既婚の女性でも将来妊娠・分娩を希望する場合には、筋腫核出術(筋腫のみを子宮筋層からくりぬく手術)を行い、子宮の温存に努めることが必要である。

(2) 原告には、下腹部痛以外に過多月経や月経痛などの症状はなく、下腹部痛についても、卵巣嚢腫あるいは子宮筋腫のための痛みと考えられるが、対症療法により手術を待機すべきであり、手術をする必要はなかった。

なお、原告には卵巣嚢腫茎捻転はなかったし、仮に茎捻転があったとしても、軽度なものであって、手術の必要まではなかった。

(3) 仮に手術の必要があったとしても、原告は二八歳の未婚の女性であるうえ、その子宮筋腫は、筋腫のため子宮が手拳大になるくらいの大きさであったが、筋腫をくりぬくことにより子宮を温存することが十分可能であったから、被告梶川および被告小峪としては、筋腫核出術により子宮を温存すべき義務があるにもかかわらず、術式(手術の方式)選択の判断を誤り、子宮全摘術を行うことに決め、被告小峪の執刀により原告の子宮を全部摘出してしまった。

4  原告の承諾なき子宮全摘術の違法性

本件子宮全摘術は、原告の承諾を得ないでなされた違法な手術である。

5  被告らの責任

(一) 被告光仁会の債務不履行責任

(1) 原告は、梶川病院において受診、入院するにあたり、被告光仁会との間で、虫垂炎の手術その他適切な診断及び処置をすることを内容とする医療契約(準委任契約)を締結した。

(2) 被告光仁会は、その経営する梶川病院において、被告梶川(病院長)及び被告小峪(勤務医)を右債務の履行に当たらせていたところ、右被告両名が前記3及び4の所為により原告の子宮を全部摘出したものであるから、被告光仁会は、債務不履行(不完全履行)により、原告の被った損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告梶川及び被告小峪の不法行為責任

被告梶川及び被告小峪の前記3及び4の所為は、原告に対する不法行為に当たり、右両名は、その責任を免れない。

6  損害

(一) 慰謝料 二〇〇〇万円

原告は、当時二八歳の未婚の女性であり、近い将来、結婚、妊娠、出産により幸福な家庭を築き、子供を養育するという女性としての当然の人生を夢見て日々の生活を営んでいたものであるが、本件子宮全摘術により妊娠、出産の不可能な身体になり、妊娠、出産、子供の養育という女性としての人生の大きな喜びと重大な可能性を失うことになり、今後の人生設計上大いなる打撃を受けることになった。

身体的にも、子宮全摘術の後遺症として、現在でも身体が船に乗っているように揺れる「浮上感」に悩まされている。

被告梶川及び被告小峪が、外科医であるにもかかわらず、産婦人科の手術に拙速的に手を出したという営利主義や、女性の子宮を軽く見るという男性の偏見に本件が根ざしていることも、原告の怒りや悲しみをより深く大きいものにしている。

原告のこの精神的、身体的苦痛については、二〇〇〇万円をもって慰謝するのが相当である。

(二) 弁護士費用 二六〇万円

被告らの負担すべき弁護士費用としては、日弁連報酬等基準規定による手数料及び謝金の合計二六〇万円が相当である。

7  結論

よって、原告は、被告光仁会に対しては債務不履行により、被告梶川及び被告小峪に対しては不法行為により、二二六〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和五九年一〇月三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1は認める。

2(一)  請求原因2(一)のうち、原告は、昭和五九年一〇月二日夕方から腹痛があり、翌三日梶川病院で被告梶川の診察を受け、即日入院して手術を受けることになったこと、原告が血液検査と腹部レントゲン撮影を受けたこと、被告梶川及び被告小峪が手術に立ち会ったことは認めるが、その余は否認する。

被告梶川が腹部の激痛を訴える原告を診察したところ、痛みは間歇的であったが、右下腹部の圧痛、筋性防御、ローゼンスタインサイン、ブルンベルグサインがいずれも強かったので、急性腹症の原因疾患として虫垂炎の疑いを持ち、その旨と手術の必要性を原告に告げたものであり、確定的に虫垂炎と診断したわけではない。即日原告を入院させ、血液検査、腹部レントゲン撮影を施行した結果、白血球数は七二〇〇と正常値であり、レントゲン所見として、左下腹部に歯状石灰化陰影が認められ、腸管のガス圧排像が左右に認められた。

(二)  請求原因2(二)のうち、原告が昭和五九月一〇月三日午後三時ころ手術のために脊椎麻酔をかけられたこと、被告梶川と被告小峪が原告の症病名を卵巣嚢腫と診断して全身麻酔に切り換えたこと、被告小峪の執刀により手術が開始されたことは認める。

前記血液検査、腹部レントゲン撮影の結果に併せて、脊椎麻酔後の筋弛緩により下腹部に左右二個の腫瘤が触知されたため、右被告らは、原因疾患が虫垂炎ではなくて左右両側の卵巣嚢腫であり、右卵巣嚢腫には茎捻転があると診断した。

(三)  請求原因2(三)は認める。

3(一)  請求原因3(一)について、被告梶川が原告の症病名を虫垂炎であると誤診したことは否認する。

被告梶川は、原告の診療経過中、虫垂炎の疑いを持ったにすぎず、何ら誤診ではない。

(二)  請求原因3(二)のうち、被告梶川と被告小峪が外科医であることは認めるが、その余は否認する。

外科医である被告梶川及び被告小峪が産婦人科の手術を行うことは、医師として何ら差し支えない。本件の場合、原告は激痛を訴えており、右被告らとしては、卵巣嚢腫が茎捻転を起こしているものと診断し、緊急を要する状態であると判断したうえ、手術に踏み切ったものであるから、何らの問題はない。

(三)(1)  請求原因3(三)(1)は認め、同3(三)(2)は否認する。同3(三)(3)のうち、原告が二八歳の未婚の女性であること、被告小峪の執刀により原告の子宮を全部摘出してしまったことは認めるが、その余は否認する。

(2) 被告らは、原告の急性腹症の原因疾患が虫垂炎ではなくて左右両側の卵巣嚢腫であり、右卵巣嚢腫には茎捻転があると診断し、開腹手術を行ったのであるから、手術適応自体には何ら問題はない。

開腹手術の結果、左卵巣は奇形腫の卵巣嚢腫で軽度の茎捻転があり、手拳大であったので、これを摘出した。一方、右卵巣は正常であったが、下腹部右側の腫瘤は子宮筋腫であることが判明した。

(3) 子宮筋腫は、手拳大であり、左卵巣が子宮を右側に圧迫した形で充血状態になっていて、子宮がずくずくした感じで大きく腫大しており、原告の下腹部痛の原因が子宮筋腫自体にあるのではないかと考えられた。子宮筋腫は、不正子宮出血、月経過多症、月経痛、貧血その他種々の症状を発現することが多く、さらに子宮筋腫が増大すると、周囲の内臓器を圧迫し、圧迫症状を起こすことが指摘されている。したがって、子宮筋腫の場合、無症状であっても手拳大以上であれば手術適応があるとされてきたのであって、本件においては、筋層内筋腫であってこの種の筋腫が一般に早く増大することを考えると、手術適応があったといわざるをえない。

(4) 子宮筋腫の手術と術式の選択

被告らは、原告の子宮筋腫が手拳大であり、充血してずくずくした感じで腫大していたので、筋腫核出術によった場合、残存する子宮が小さくその機能を温存することは困難であると判断し、子宮全摘術を選択したのであって、被告らが子宮全摘術によって原告の子宮を全部摘出してしまったことに何ら過失はない。

なお、筋腫が大きく、正常部分の少ない筋層内子宮筋腫の場合、保存術式である筋腫核出術を行っても、子宮は変形し、さらに骨盤内で周囲臓器との癒着や子宮内膜癒着が起きて、術後に後遺症の原因となり、さらには核出後三ないし五年間に子宮筋腫が再発し、再度開腹手術をせざるをえない可能性が強い。

また、筋腫核出術後の妊孕率が五〇パーセントであり、妊娠したとしても、流産、早産等の事態を生ずる場合が多く、成熟児を得る割合は五〇パーセントであることが指摘されているところ、子宮腔が筋腫により変形、縮小するなど原告の子宮体部に発育不全が見られることを考えると、原告の場合、妊娠して成熟児を得る割合は五〇パーセントより相当低下し、不育症の割合が相当高いものといえる。

4  請求原因4は否認する。

5(一)  請求原因5(一)(1)は認め、同5(一)(2)は否認する。

(二)  請求原因5(二)は否認する。

6  請求原因6は知らない。

三  被告らの主張

1  原告の承諾

被告梶川は、昭和五九年一〇月三日、原告を診察した結果虫垂炎の疑いを持ち、原告にその旨と手術の必要を告げ、原告の承諾を得た。

血液検査、腹部レントゲン撮影施行後、同日午後三時ころ、手術のため原告に脊椎麻酔をかけたが、右検査結果にあわせて、脊椎麻酔後の筋弛緩により下腹部に左右二個の腫瘤が触知されたため、被告梶川と被告小峪は、原因疾患が虫垂炎ではなくて左右両側の卵巣嚢腫であり、右卵巣嚢腫には茎捻転があると診断し、原告に対し、両側の卵巣嚢腫と右側は茎捻転であろう旨及び両側の卵巣を摘出するかもしれず、子供が生めなくなることを述べ、その承諾を得て、全身麻酔のうえ開腹手術が行われた。

2  原告の姉畑村満智子(以下、「畑村」という)の承諾

開腹手術の結果、左卵巣嚢腫と子宮筋腫であることが判明し、全身麻酔中で原告に説明して承諾を得ることができなかったため、被告梶川は、原告の姉畑村を手術室に呼んで状況を説明し、卵巣摘出の必要性、子宮筋腫を残しても再手術をすることになるであろうこと、許可があれば子宮摘出が可能であることを述べ、その承諾を得て、左卵巣及び子宮摘出の手術が行われた。

3  慰謝料の減額事由

被告らが請求原因に対する認否及び反論3(三)(4)で述べた筋腫核出術後の障害や妊孕率の実情は、仮に子宮全摘術により原告の子宮を摘出したことについて被告らに責任があるとしても、損害額の算定にあたって斟酌されるべきである。

四  被告らの主張に対する認否及び反論

1(一)  被告らの主張1のうち、被告梶川が、昭和五九年一〇月三日、原告に虫垂炎の手術の必要を告げ、原告がこれを承諾したこと、同日午後三時ころ、手術のため脊椎麻酔がかけられたこと、その後で卵巣嚢腫と両側の卵巣摘出について説明を受けたこと、右説明に対し、原告が「しょうがありません。よろしくお願いします」と答えたこと、全身麻酔のうえ開腹手術が行われたことは認める。

(二)  脊椎麻酔をかけられた状態で、ゆっくり考える暇もない短時間に病名と手術の変更を告げられたうえでなされた承諾は、卵巣嚢腫摘出手術についての有効な承諾とはいえない。しかも、被告らは、卵巣嚢腫について、両側の卵巣摘出の必要性と子供が生めなくなることを説明しているが、両側の卵巣嚢腫であっても、嚢腫だけくりぬいて卵巣を温存できるから、右説明は医学的に間違いであり、誤った説明に基づく手術の承諾は、有効な承諾とはいえない。

2(一)  被告らの主張2のうち、開腹手術の結果、左卵巣嚢腫と子宮筋腫であることが判明したこと、原告が全身麻酔中であったこと、原告の姉畑村が被告梶川から呼ばれて手術室で説明を受けたこと、右説明に対し、畑村が「よろしくお願いします」と答えたこと、左卵巣及び子宮摘出の手術が行われたことは認める。

(二)  開腹した状態ではあっても、子宮筋腫の手術自体は緊急を要するものではなく、卵巣嚢腫の手術だけで一旦閉腹して、子宮筋腫については、後日原告の承諾を得て行うことも十分可能であったから、本人の承諾を不要とする場合には当たらない。

したがって、子宮全摘術については、本人である原告の承諾のない違法な手術であり、付添いの姉畑村の承諾をもって原告の承諾に代えることはできない。また、姉畑村に対する説明と承諾についてみても、子宮全摘術以外に筋腫核出術という術式があり、子宮の温存が可能であるという説明が一切なされていないから、畑村の承諾自体をとっても、誤った説明に基づく承諾であって、有効な承諾とはいえない。

3  被告らの主張3は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二原告の子宮摘出に至る経過について

〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができる。

1  原告は、昭和五九年一〇月二日夕方から間歇的に下腹部痛があったため、翌三日山本泌尿器科病院で受診したところ、腹部にしこりがあるが原因がわからないとして、梶川病院を紹介されたので、歩いて同病院へ行き、被告梶川の診察を受けた(原告が、昭和五九年一〇月二日夕方から腹痛があり、翌三日梶川病院で被告梶川の診察を受けたことは、当事者間に争いがない)。

2  被告梶川は、原告を触診など約五分間診察した結果、右下腹部の圧痛、筋性防御、ローゼンスタインサイン、ブルンベルグサインがいずれも強かったうえ、筋性防御のため腹部腫瘤を触知できなかったので、急性腹症の原因疾患として虫垂炎の疑いを持ち、原告にその旨と手術の必要性を告げて承諾を得、原告は、血液検査、腹部レントゲン撮影を受けるとともに、即日入院して虫垂炎の手術を受けることになった(被告梶川が原告に虫垂炎の手術の必要を告げ、原告がこれを承諾したこと、原告が、血液検査、腹部レントゲン撮影を受けるとともに、即日入院して手術を受けることになったことは、当事者間に争いがない)。

3  原告は、同日午後三時ころ、手術室で虫垂切除手術のため脊椎麻酔をかけられたが、被告梶川と被告小峪は、麻酔後の筋弛緩により原告の下腹部に左右二個の腫瘤を触知したため、前記検査結果を検討したところ、白血球数が七二〇〇と正常値であり、レントゲン所見として、左下腹部に歯状石化陰影が、右下腹部に腸管のガス圧排像が認められたので、急性腹症の原因疾患を急性虫垂炎ではなくて左右両側の卵巣嚢腫であり、右卵巣嚢腫には茎捻転があると診断し、原告に対し、その診断結果と左右の卵巣を両方とも摘出することになるかもしれず、子供が生めなくなる旨を説明し、原告は、「よろしくお願いします」と答えた。そこで、同日午後三時一五分ころ、全身麻酔に切り換えたうえ、被告小峪の執刀により開腹手術が行われた(原告が、同日午後三時ころ、脊椎麻酔をかけられたこと、全身麻酔のうえ被告小峪の執刀により開腹手術が行われたことは、当事者間に争いがない)。

4  ところが、開腹後、左卵巣は嚢腫であったが、右卵巣には嚢腫も茎捻転も認められず、右側部の腫瘤は子宮筋腫であることが判明した。子宮筋腫は、筋層内筋腫で手拳大であり、充血して腫大していたところ、被告梶川及び被告小峪は、筋腫核出術によった場合、残存する子宮が小さくその機能を温存することは困難であると判断し、子宮全摘術により子宮全部を摘出することが相当であると考え、全身麻酔中で原告の意識がなかったので、付添いの姉畑村を手術室に呼んで臓器を見せたうえ、被告梶川において、左卵巣摘出の必要性、子宮筋腫が大きいのでいずれ再手術をすることになるであろうこと、したがって子宮を摘出したほうがよいと思うが、子供は生めなくなることを説明し、畑村の承諾を得た。そこで、被告小峪の執刀により、同日午後四時四五分に左卵巣が、午後五時一〇分に子宮がそれぞれ摘出され、午後五時三〇分に手術が終了し、原告は、子供を生めない身体になった(開腹後、左卵巣は嚢腫であったが、右卵巣に嚢腫はなく、右側部の腫瘤は子宮筋腫であることが判明したこと、原告が全身麻酔中であったこと、畑村が被告梶川から呼ばれて手術室で説明を受けたこと、左卵巣及び子宮摘出の手術が行われたことは、当事者間に争いがない)。

5  手術前、原告には、月経痛・過多月経等の月経異状の症状はみられなかった。

6  手術後、原告の下腹部痛は消失した。

なお、被告らは、原告の左卵巣嚢腫に軽度の茎捻転があった旨主張しているところ、執刀医である被告小峪はその本人尋問において、左卵巣嚢腫に軽度の茎捻転があり、捻転を回復させるような処置は特別にしなかったが、手術内の操作のうちですぐに戻った旨供述し、被告梶川は、開腹後同被告が診たときに左卵巣嚢腫の茎捻転があったかどうか明確な記憶はないが、麻酔によって茎捻転が寛解したものと思う旨供述している。

しかしながら、前記認定のとおり、開腹手術前における原告の痛みは右下腹部であり、右卵巣嚢腫に茎捻転があるものと診断されていたにもかかわらず、開腹後右卵巣には嚢腫も茎捻転もなかったこと、〈証拠〉には、茎捻転に関する記載が一切ないこと、〈証拠〉によれば、産婦人科医の経験として、卵巣嚢腫茎捻転の患者が自力で歩いて病院に来ることは通常考え難いものと認められるところ、原告が歩いて梶川病院に来院したこと前記認定のとおりであるし、〈証拠〉によれば、原告は、入院することになってから、歩いて荷物を取りに帰っていることが認められること、〈証拠〉によれば、摘出された原告の左卵巣には茎捻転に通常みられる阻血がないものと認められることなどからすると、被告小峪及び被告梶川の前記各供述部分は俄に採用することができず、むしろ左卵巣嚢腫の茎捻転はなかったものと推認するのが相当である。

三医療契約と医師の医療行為について

1  原告が、梶川病院において受診、入院するにあたり、被告光仁会との間で、虫垂炎の手術その他適切な診断及び処置をすることを内容とする医療契約(準委任契約。以下、「本件医療契約」という)を締結したことは、当事者間に争いがない。

2 ところで、医師の医療行為は、医療契約に基づいて行われるのが一般であるが、医師が善管注意義務を果たして適切な医療行為を行う限り、その内容についてはかなり広く医師の裁量に委ねられる面が存することは、否定できない。しかしながら、医療行為についても、患者の身体に対する侵襲行為の側面を有する以上、たとえ医師の適切な判断によるものであったとしても、患者の承諾があってはじめてその違法性が阻却されるものというべきところ(したがって、患者の承諾があったことの立証責任は医師側が負担する)、医療契約の締結によって右承諾が全てなされたものということはできず、医療契約から当然予測される危険性の少ない軽微な侵襲を除き、緊急事態で承諾を得ることができない場合等特段の事情がない限り、原則として、個別の承諾が必要であると解するのが相当であり、医師の医療行為が不適切な場合には、それだけ違法性が強いものといえる。

もっとも、患者の右承諾は、ただ形式的に存在していればよいというものではなく、医師としては、患者が自らの判断で医療行為の諾否を決定することができるよう、病状、実施予定の医療行為とその内容、予想される危険性、代替可能な他の治療方法等を患者に説明する義務があり、右説明義務に反してなされた承諾は、適法な承諾とはいえないものと解するのが相当である(なお、医師の右説明義務が患者の適法な承諾の前提である以上、その立証責任は、医師側にあるものというべきである)。

そして、患者の適法な承諾がない限り、医師側としては、債務不履行もしくは不法行為責任を免れないものというべきである。

3  そこで、原告の子宮筋腫を前提として、手術適応があったかどうか、手術適応があったとして子宮全摘術を選択したことが適切であったかどうか、原告がこれに適法な承諾を与えたか否かについて、以下に検討する。

四原告の子宮筋腫と手術適応について

1 原告が虫垂切除手術のため脊椎麻酔をかけられた後、被告梶川と被告小峪が、麻酔後の筋弛緩により原告の下腹部に左右二個の腫瘤を触知したため、血液検査及びレントゲン撮影の各検査結果を検討して、急性腹症の原因疾患を虫垂炎ではなくて左右両側の卵巣嚢腫であり、右卵巣嚢腫には茎捻転があると診断したことは、前記二に認定のとおりであるところ、左卵巣は嚢腫であったが、右卵巣には嚢腫はなく、左右どちらにも茎捻転は認められたかったこともまた前記認定のとおりであるから、被告梶川及び被告小峪の右診断を前提としてなされた開腹手術の実施が適切であったか否か疑問なしとしない(もっとも、右被告両名が右診断を下した時点で原告を産婦人科へ転送する義務があったとまで断定しえないことは、後記認定のとおりである)。しかしながら、結果として、原告は子宮筋腫に罹患していたのであるから、客観的に子宮筋腫の手術適応が認められる限り、右被告両名が開腹手術を実施したこと自体を非難するにあたらないから、果たして原告の子宮筋腫に手術適応があったか否かについて検討する。

2  〈証拠〉によれば、筋層内子宮筋腫のうち、無症状であっても子宮の大きさが手拳大以上のもの、大きさはともかく、月経痛・過多月経等の月経異常、不正出血、増大した腫瘤による圧迫症状としての下腹部痛等の症状があるものについては、いずれも手術適応のあることが認められ、右認定に反する〈証拠〉中の記載部分は、前掲各証拠に照らし、俄に採用することができない。

ところで、原告の子宮筋腫は、筋層内筋腫で手拳大であり、充血して腫大していたこと、原告には右下腹部痛の症状が存したこと前記二に認定のとおりであるから(なお、前記二に認定のとおり、左卵巣嚢腫に茎捻転がなかったこと、右卵巣は正常であったこと、子宮全摘術による子宮摘出後は右下腹部痛が消失したことに照らし、原告の右下腹部痛は、子宮筋腫の腫瘤による圧迫症状に起因するものと推認される)、子宮筋腫としての手術適応があったものと認められる。

もっとも、〈証拠〉は、子宮筋腫について、子宮が手拳大ぐらいの大きさであっても、他の症状がないときには、わざわざ手術をする必要はない旨証言しているところ、一方では、開腹後に子宮筋腫が発見された以上、何もしないで閉腹する必要はなく、筋腫だけを取ったのであれば良い手術だったといえる旨証言しているうえ、原告には右下腹部痛の症状が存したこと右のとおりであるから、〈証拠〉の前記証言部分をもって、同証人が原告の子宮筋腫の手術適応自体を否定する趣旨ではないものというべきである。

五子宮全摘術の選択について

1  〈証拠〉によれば、子宮筋腫の手術適応があっても、若い未婚の女性及び既婚者でも妊娠・分娩を希望する女性の場合には、子宮全摘術を行うべきではなく、保存術式である筋腫核出術(筋腫のみを子宮筋層からくりぬく術式)を行って、子宮の温存に努めるべきであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2 原告が二八歳の未婚の女性であること前記一のとおりであるし、〈証拠〉によれば、原告の子宮筋腫は、子宮内膜症もない、臨床的にも一般的によく見られる程度の大きさの筋層内筋腫であることが認められるから、被告梶川及び被告小峪が、原告の子宮筋腫を手術するについて、子宮全摘術を選択したことは適切でなかったものといわざるをえない。

3  もっとも、子宮全摘術の術式自体に欠陥があるわけではないところ、〈証拠〉によれば、子宮全摘術であると子宮癌の発生を完全に予防できること、筋腫核出術によった場合、子宮筋腫の再発が皆無ではないことが認められるから、若い未婚の女性及び既婚者であっても妊娠・分娩を希望する女性の手術適応ある子宮筋腫について、患者の適法な承諾がある場合についてまで、医師が子宮全摘術を選択することを許容できないものということはできないものというべきである。

六原告の承諾について

1 原告の右側部の腫瘤が子宮筋腫であることが判明したとき、全身麻酔中で原告の意識がなかったため、被告梶川と被告小峪が、原告の承諾を得ることなく子宮全摘術を行ったことは、前記二に認定のとおりであるところ、子宮の摘出が本件医療契約から当然に予測される危険性の少ない軽微な侵襲であるということは到底できないし、前記二に認定の事実に併せて、〈証拠〉によれば、原告の子宮筋腫について、緊急に手術を要したわけではなく、一旦閉腹して原告の承諾を得ることも可能であったことが認められるから、子宮全摘術の実施は、原告の承諾を要しない場合に当たらないものというほかない。

そして、原告が成人で判断能力を有している以上、親族である姉畑村の承諾を以て原告のそれに代えることは許されないものというべきである。

2 脊椎麻酔から全身麻酔に切り替える前、被告梶川と被告小峪が、原告に対し、左右の卵巣を両方とも摘出することになるかもしれず、子供が生めなくなる旨を説明し、その承諾を得たことは、前記二に認定のとおりであるところ、被告らは、原告が子供を生めなくなることを承諾していた以上、子宮全摘術の実施に際し改めて原告の承諾を得る必要はない旨主張しているものとも解されるので検討する。

しかしながら、開腹後、はじめて子宮筋腫が発見され、しかも右卵巣には嚢腫も認められなかったのであるから、少なくとも右卵巣を摘出する必要のないことは明らかであるというほかなく、被告梶川及び被告小峪としては、原告に対し、新に右状況、術式の方法及び予想される危険性等を十分説明する義務があり、そのうえで子宮全摘術を実施することの承諾を得る必要があるものというべきであって、被告らの右主張は失当である。

3 してみると、結局のところ、原告の子宮筋腫につき、被告小峪の執刀によりなされた子宮全摘術の実施は、原告の適法な承諾を得ないでなされた違法な医療行為であるというほかない。

七被告梶川及び被告小峪のその余の注意義務違反(過失)について

1  被告梶川が原告の急性腹症について虫垂炎であると確定的に診断したわけではないものの、被告梶川と被告小峪が、血液検査や腹部レントゲン撮影の各検査結果を事前に十分検討することなく、虫垂炎切除手術のための脊椎麻酔に着手したことは、やや拙速にすぎた感は否めないが、少なくとも右所為と子宮全摘術が実施されたこととの間に相当因果関係のないことは明らかである。

2  転送義務違反について

被告梶川と被告小峪が外科医であることは、当事者間に争いがない。

原告は、被告梶川及び被告小峪が、脊椎麻酔後原告の症病名が虫垂炎ではなく卵巣嚢腫であることに気づいたのであるから、この時点で、外科医である右被告両名としては、診断及び手術適応についての判断の正確を期するため、原告を産婦人科へ転送すべき義務があった旨主張する。

そこで検討するに、〈証拠〉は、卵巣嚢腫の診断がついた時点で原告を産婦人科へ転送してほしかった旨証言し、被告梶川及び被告小峪も、各本人尋問において、卵巣嚢腫や子宮筋腫の場合、手術適応・術式選択の判断、手術の実施は外科医よりも産婦人科医が行った方がよい旨供述しているところ、前記二に認定にかかる原告の子宮摘出に至る経緯に照らしても、少なくとも脊椎麻酔後、原告の急性腹症の原因疾患が虫垂炎ではなくて左右両側の卵巣嚢腫であり、右卵巣嚢腫には茎捻転があると診断された時点で、原告を産婦人科へ転送するのが妥当であったものといえる。

しかしながら、被告梶川及び被告小峪の各本人尋問の結果によれば、右被告両名は、外科医ではあるものの、卵巣嚢腫や子宮筋腫についての医学上の知識及び臨床経験を有していることが認められ、これに併せて、右被告両名が卵巣嚢腫の茎捻転を疑ったこと自体を一概に責めることはできないこと、左卵巣嚢腫及び子宮筋腫の摘出手術自体は成功していること、外科医と産婦人科医は、内臓の外科的技術を必要とするという点では共通していることを考えると、右診断の時点で、原告を産婦人科へ転送する義務があったとまで断定することはできず、他に原告の前記主張を認めるに足りる証拠はない。

八損害

1  被告らは、仮に子宮全摘術により原告の子宮を摘出したことにつき被告らに責任があるとしても、保存術式である筋腫核出術によった場合、臓器との癒着等後遺症の原因となること、子宮筋腫の再発により再手術の可能性が強いこと、筋腫核出術後の妊孕率が五〇パーセントであり、妊娠しても流産、早産等の事態を生ずる場合が多く、成熟児を得る割合も五〇パーセントであること、子宮腔が筋腫により変形、縮小するなど原告の子宮体部に発育不全がみられるから、原告が妊娠して成熟児を得る割合は五〇パーセントより相当低下することを指摘し、右事情を損害額の算定にあたって斟酌すべき旨主張するので、検討する。

(一)  筋腫核出術が適切に行われた場合に、臓器との癒着等の後遺症が発生する危険性のあることを認めるに足りる証拠はない。もっとも、〈証拠〉には、筋腫核出術の障害として腸管癒着等の可能性が指摘されているが、同じく〈証拠〉によれば、適切な処置によりこれを防ぎうることが認められる。

(二)  〈証拠〉には、筋腫核出術後の再発率について、筋腫が発育してから処理する方が再発の危険性が少なく、その場合は四パーセントである旨の、〈証拠〉には、臨床報告として、筋腫核出術実施一二二例中再手術六例(再発率四・九パーセント)であった旨の、〈証拠〉には、臨床報告として、筋腫核出術一二九例中再発主訴で再来院したもの二例であり、筋腫核を徹底的かつ根治的に除去すれば、術後の再発は殆どない旨の各記載があり、右によれば、筋腫核出術が適切になされる限り、術後の再発による再手術の可能性は少ないものと認められる。

もっとも、〈証拠〉には、筋腫核出術後の再発率として二〇ないし三〇パーセントである旨の記載または供述部分があるが、筋腫核出術実施の時期及び方法についての具体的な指摘がなく、右認定を左右するに足りない(なお、〈証拠〉によれば、筋腫核出術未経験の四〇歳以上の女性の場合、子宮筋腫の発生率は、四、五人に一人であることが認められるから、右再発率を前提としても、術後の再発が特に高いものとはいえない)。

(三)  筋腫核出術後の妊孕率が五〇パーセントであるとの点について、〈証拠〉の証言中には右に符合する供述部分があるが、〈証拠〉によれば、その趣旨は、子宮筋腫が不妊症または不育症の原因となっている女性になされた筋腫核出術後の妊孕率が五〇パーセントであるということが明らかであり、そうすると原告が未婚の女性である以上、不妊症であると断定できないものというほかないから、右妊孕率を前提とすることはできない。

(四)  筋腫核出術後に妊娠しても、流産、早産の事態を生ずることが多いとの点については、〈証拠〉には、右に符合する記載または供述部分があるが、〈証拠〉に照らし、到底採用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(五)  〈証拠〉によれば、子宮腔が筋腫により変形、縮小するなど原告の子宮体部に発育不全のあることが認められるが、同証言のうち、そのため成熟児を得る割合が相当低下するとの供述部分については、〈証拠〉に照らし、俄に採用することができない。

2  慰謝料

〈証拠〉によれば、原告は、子宮全摘術を受けた当時、二八歳の働く未婚の女性であり(原告が二八歳の未婚の女性であったことは当事者間に争いがない)、夏は登山に、冬はスキーに出かけるなど活発で健康的な生活を送っていたことが認められ、人並みの女性として、結婚、妊娠、出産そして育児という幸せな人生設計を抱いていたであろうことは、想像するに難くなく、それだけに、健全な女性の根源ともいうべき子宮を喪失して子供を生めない身体になってしまった原告が、その承諾を得ないままに子宮全摘術を実施した被告梶川及び被告小峪に対して強い憤りを抱いていること(右各証拠による)も尤もなところであるし、原告の深い悲しみについても察するに余りあり、現に、原告は、その本人尋問において、結婚とか見合いとかは考えられず、子宮がないと言わなければならないことは辛いことである旨その心情を吐露している。

右に併せて、〈証拠〉によれば、原告は、子宮全摘術実施後身体が船に乗っているように揺れる「浮上感」に悩まされていることが認められること、前記認定にかかる原告の子宮摘出に至る経過、子宮筋腫の未婚の女性に筋腫核出術ではなくて子宮全摘術を行うことは原則として不適切であるといわざるをえないこと、被告梶川と被告小峪としては原告を卵巣嚢腫と診断した時点で原告を産婦人科へ転送する方が妥当であったことその他諸般の事情を総合勘案すれば、子宮を喪失したことによる原告の精神的、肉体的苦痛を慰謝すべき額としては、一二〇〇万円が相当である。

3  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らが本訴提起を原告代理人に委任し、その報酬を原告が支払うことになっていることが認められるところ、本件事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、被告梶川及び被告小峪の本件違法行為と相当因果関係のある損害として被告らに賠償を求めうる弁護士費用の額は、一五〇万円とするのが相当である。

九結論

よって、被告光仁会は債務不履行(不完全履行)に基づく損害賠償として、被告梶川及び被告小峪は不法行為に基づく損害賠償として、原告に対し、各自一三五〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和五九年一〇月三日(被告光仁会については、本件記録上訴状送達の日の翌日であることが明らかな同年一一月二二日)から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の被告らに対する本訴各請求は右の限度で正当であるから認容し、その余の各請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官内藤紘二)

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